iOS 7 beta: ここ10年で最大の悪夢

2013-06-14

WWDC 2013でOS X MavericksやMacBook Airらと一緒に、iOS 7が発表された。フラットデザインになるとかねてから噂されていたし、直前には9to5MacがリークされたiOS 7を元につくったというモックアップを掲載していた。そのデザインは悪い冗談にしか思えなかったが、翌朝WWDCで発表されたiOS 7はその悪い冗談そのものだった。

iOS 7のデザイン変更のきっかけのひとつは、過剰なSkeuomorphicデザインへの批判だと思うけど、おれはiOS 6以前のSkeuomorphicあるいは過剰な装飾が嫌いじゃない。批判されることの多かったNewsstandの木の本棚やGame Centerの緑のフェルトなんかは正直言って結構気に入っていた。無意味な遊び心だけじゃなくそれが何を表してるか明確だし、特に誤解を招く表現でもなかった。それにiOSはシングルタスクでひとつのアプリケーションが画面を占有するんだから、それぞれのアプリケーションにそれぞれの世界観があってもいいと思ってる。

でもまあデザインを変えたい気持ちも分かる。確かに装飾はうるさすぎると感じることもあったし、フラットデザインは流行でもある。だから別にシンプルにするのはいいし、新しいデザインの方向性に踏み出すのもいい。フラットになるという噂を聞いた時には心が躍ったし、WWDCの前日にはうまく寝付けないくらいだった。Appleが流行を踏まえて一体どんな素晴らしいデザインを見せてくれんだろう。しかし結果は虫の集まった誘蛾灯風デザインか? 凡庸ですらない。悪夢だ。

各種アイコンが目を背けたくなるほど醜いのはもちろん、新しいControl Centerは線が多すぎて全く秩序が感じられないし、全面的に新しくなったデザインも蛍光色の細いHelveticaが散らばってるように見えてただ汚い 1 。それに無意味にユーザビリティを犠牲にしている。

iOS 7の前後には、デザインについてこう語られることが多かった。WIREDの記事:

iOSにこれまでみられたスキューモーフィズムも、元はといえばタッチスクリーン(の操作方法)をユーザーにとって近づきやすく、決して怖がる必要のないものと感じさせるためのものだった。

しかし、いまではそうした問題は解決されている。いまではタッチスクリーンの操作方法について人に教える必要はなく、3歳児でも使えるものになっている。

こういう意見には全く納得できない。例えば、ロック画面の “Slide to Unlock” や、そのときに着信すると表示される “Slide to answer” には、iOS 6時代には凹みの左端に右向き矢印のブロックがあって、何をスライドすればいいのか簡単に理解出来た。一方iOS 7では “Slide to Answer” という文字以外に何も表示されない。

どこをどうスライドさせろっていうんだ。「もうiOSの使い方は分かってるだろ」か? ふざけるなそんなのデザインじゃない。そんなにユーザは使い方を分かってるというなら、iOS 8では画面を真っ暗にして手探りで操作させろ。得意の「3歳児」も今と変わらず操作出来るだろうよ。元から何も分かってないんだからな。

「複雑性のなかに秩序をもたらす (bringing order to complexity)」とかいう曖昧な理念はどうでもいい。そのノリでくだらない会社のスローガンでも作ったらどうだ。結局のところ新しいデザインで何が改善される? 新しい「無意味な装飾」を生み出しただけじゃないか。しかも今回は深刻なユーザビリティの低下と一緒に。上の記事でiOS 6以前を「機能性の追求よりも売上の追求を優先した」デザインだと書いてるけど、それはiOS 7のほうだろ? 流行に取り残されない/ユーザを飽きさせないために行われた小手先のデザイン変更だよ。

まさかこんな日が来るとは思わなかったけど、もしこんなクオリティのiOS 7がリリースされるのなら、アップデートはせずにAndroidに買い替えるかもしれない(AndroidのデザインがiOSより優れているとは思わないけど、始めから期待してないだけマシだ)。どうしてこんなことになってしまったのか。本当に悲しい。iPhoneがはじめて発表されたとき、もうこれで使っててイライラする携帯とはおさらばできると思ったのに。はあ、いやだな。

  1. 個人的にHelvetica (Neue) をそこまで好きではないし、特に細いウェイトのHelveticaは嫌いだということは前提にあるかもしれないけれど(曲線が強調されてねちっこく見える)